「アイ」逝去
政府の統計によると、1年間で最も死亡者数が多いのは1月で、次いで2月、12月と続き、冬の寒い時期に集中しています。この傾向は、戦後の死亡統計が始まった1947年以降、ほとんど変わっていません。年末から年始にかけて著名人の訃報が相次ぐのは不思議ではありません。
そうぼんやり考えていた年明けの2026年1月9日(金)に「アイ」が亡くなりました。49歳でした。ヒトからみれば、まだ若いと思われそうですが、チンパンジーの平均寿命は28歳といわれ随分長生きしてくれました。そうです、「アイ」とは、1977年に生まれ故郷のアフリカから愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所(霊長研:現在はヒト行動進化研究センター)にやってきたチンパンジーのことです。日本に来て言語の進化的起源を探る研究をはじめ、さまざまな知覚?学習?記憶などを精密に調べる研究パートナーとして貢献してきた天才チンパンジー「アイ」です。
私の実家に近いこの霊長研の近くには、博物館日本モンキーセンターがあり、さらにその周辺には、現存最古の天守を誇る国宝犬山城、博物館明治村、通称犬山成田山が点在しており、愛知県北端の文化エリアでもあります。私の子どもたちが小さい頃は、中でもモンキーセンターにはよく遊びに行っていました。ちなみに「アイ」と同世代の私の娘の名前も「アイ(愛)」です。そのためか、霊長研の「アイ」には親近感があり、彼女が様々な研究課題をこなしていくニュースにはいつも感心していました。特に、色とその言葉を識別したり、数字を順番に並べたり、人が指示することを瞬時に理解する能力はずば抜けていました。果たして、チンパンジーの言語能力はどの程度判明しているのでしょう。
ドイツのマックス?プランク進化人類学研究所の研究チームは、コートジボワールのタイ国立公園に生息する3つのチンパンジーの群れを調査し、野生のチンパンジー46頭から延べ900時間に及ぶ音声記録を収録し解析しました。5000回の鳴き声を分析したところ、チンパンジーの鳴き声はうなり声(Grunt)、ホーという声(Hoo)、ほえ声(Bark)、叫び声(Scream)、泣き声(Whimper)、息を吸いながら音を出すあえぎ声(Pant)などの種類があることを発見しました。合計12種類の基本単位となる鳴き声が特定され、チンパンジーは390もの構文を使って会話をしていることがわかりました。
いまのところ人類が地球上で唯一言語を使うことで知られています。人類は音を組み合わせて単語を作り、単語を組み合わせて文章を作ることができます。他の生き物にはないこの能力を解明するため、科学者らは動物の発声についての研究を重ねています。2025年に初めて単著を発行した「動物言語学」の創設者である東京大学准教授 鈴木俊貴さんもそのひとりでしょう。「僕には鳥の言葉がわかる」(小学館)は、目からうろこがボロボロ落ちるような本でした。シジュウカラを追い求めて駆けずり回り、鳥の声からその言語を解析するとは脱帽です。
きっと今頃、「アイ」はそんなことも知らなかったのと言っているのかも知れません。人間だけが言葉を操り、あたかもコミュニケーションがとれていると思い込んでいることは、ある意味、滑稽な現象といえます。あえて言葉で言わなくてもわかるはずとか、ちゃんと言葉で説明して欲しいとか、人間社会には必ず「言葉」の存在があり、それが人間社会であると思っていました。がしかし、人間以外でもそれぞれの「言葉」をもち社会生活を営んでいるとしたら、そして、その事実を真摯に人間が理解するようにしたら、地球上の暮らしは豊かになる気がします。
「アイ」は人間の<言語>の進化的起源を探る研究に一生を捧げてくれました。もっと人間と自然にコミュニケーションが取りたかったのかも知れません。
元霊長類研究所長の松沢哲郎氏と元静岡県立こども病院長の瀬戸嗣郎氏との対談「チンパンジーと私たち~人間らしさを知る」では、「アイ」と2000年に誕生した「アイ」の息子「アユム」の親子研究に新たな展開が生まれたと気づきました。チンパンジーは、生後3か月ごろまで子どもを一切離さず親子は抱き合って生活し、母親がひとりで子育てをします。母親は子どもがある程度大きくなるまでしっかり世話をするため、5年間は次の子どもを産まないそうです。そして、チンパンジーの母親は子どもに何かを教えようとはせず、彼らはまず周囲がやっていることをじっと見て、次第に真似て道具使用や小さい子どもへの世話を学んでいくようです。チンパンジーのこの「教えない教育」は、人間社会では「育児放棄」ととらえられる恐れがあります。でも、大切な視点です。その教育の背後に<愛>が感じられるか否かが重要な要素でしょう。
「アイ」が遺してくれた研究財産を大切に生かし、これからは「AI」と共に「アユム」ことが私たち人間に課せられたミッションと覚悟したいものです。
「アイ」の偉大な功績に心より感謝します。ありがとう!
そうぼんやり考えていた年明けの2026年1月9日(金)に「アイ」が亡くなりました。49歳でした。ヒトからみれば、まだ若いと思われそうですが、チンパンジーの平均寿命は28歳といわれ随分長生きしてくれました。そうです、「アイ」とは、1977年に生まれ故郷のアフリカから愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所(霊長研:現在はヒト行動進化研究センター)にやってきたチンパンジーのことです。日本に来て言語の進化的起源を探る研究をはじめ、さまざまな知覚?学習?記憶などを精密に調べる研究パートナーとして貢献してきた天才チンパンジー「アイ」です。
私の実家に近いこの霊長研の近くには、博物館日本モンキーセンターがあり、さらにその周辺には、現存最古の天守を誇る国宝犬山城、博物館明治村、通称犬山成田山が点在しており、愛知県北端の文化エリアでもあります。私の子どもたちが小さい頃は、中でもモンキーセンターにはよく遊びに行っていました。ちなみに「アイ」と同世代の私の娘の名前も「アイ(愛)」です。そのためか、霊長研の「アイ」には親近感があり、彼女が様々な研究課題をこなしていくニュースにはいつも感心していました。特に、色とその言葉を識別したり、数字を順番に並べたり、人が指示することを瞬時に理解する能力はずば抜けていました。果たして、チンパンジーの言語能力はどの程度判明しているのでしょう。
ドイツのマックス?プランク進化人類学研究所の研究チームは、コートジボワールのタイ国立公園に生息する3つのチンパンジーの群れを調査し、野生のチンパンジー46頭から延べ900時間に及ぶ音声記録を収録し解析しました。5000回の鳴き声を分析したところ、チンパンジーの鳴き声はうなり声(Grunt)、ホーという声(Hoo)、ほえ声(Bark)、叫び声(Scream)、泣き声(Whimper)、息を吸いながら音を出すあえぎ声(Pant)などの種類があることを発見しました。合計12種類の基本単位となる鳴き声が特定され、チンパンジーは390もの構文を使って会話をしていることがわかりました。
いまのところ人類が地球上で唯一言語を使うことで知られています。人類は音を組み合わせて単語を作り、単語を組み合わせて文章を作ることができます。他の生き物にはないこの能力を解明するため、科学者らは動物の発声についての研究を重ねています。2025年に初めて単著を発行した「動物言語学」の創設者である東京大学准教授 鈴木俊貴さんもそのひとりでしょう。「僕には鳥の言葉がわかる」(小学館)は、目からうろこがボロボロ落ちるような本でした。シジュウカラを追い求めて駆けずり回り、鳥の声からその言語を解析するとは脱帽です。
きっと今頃、「アイ」はそんなことも知らなかったのと言っているのかも知れません。人間だけが言葉を操り、あたかもコミュニケーションがとれていると思い込んでいることは、ある意味、滑稽な現象といえます。あえて言葉で言わなくてもわかるはずとか、ちゃんと言葉で説明して欲しいとか、人間社会には必ず「言葉」の存在があり、それが人間社会であると思っていました。がしかし、人間以外でもそれぞれの「言葉」をもち社会生活を営んでいるとしたら、そして、その事実を真摯に人間が理解するようにしたら、地球上の暮らしは豊かになる気がします。
「アイ」は人間の<言語>の進化的起源を探る研究に一生を捧げてくれました。もっと人間と自然にコミュニケーションが取りたかったのかも知れません。
元霊長類研究所長の松沢哲郎氏と元静岡県立こども病院長の瀬戸嗣郎氏との対談「チンパンジーと私たち~人間らしさを知る」では、「アイ」と2000年に誕生した「アイ」の息子「アユム」の親子研究に新たな展開が生まれたと気づきました。チンパンジーは、生後3か月ごろまで子どもを一切離さず親子は抱き合って生活し、母親がひとりで子育てをします。母親は子どもがある程度大きくなるまでしっかり世話をするため、5年間は次の子どもを産まないそうです。そして、チンパンジーの母親は子どもに何かを教えようとはせず、彼らはまず周囲がやっていることをじっと見て、次第に真似て道具使用や小さい子どもへの世話を学んでいくようです。チンパンジーのこの「教えない教育」は、人間社会では「育児放棄」ととらえられる恐れがあります。でも、大切な視点です。その教育の背後に<愛>が感じられるか否かが重要な要素でしょう。
「アイ」が遺してくれた研究財産を大切に生かし、これからは「AI」と共に「アユム」ことが私たち人間に課せられたミッションと覚悟したいものです。
「アイ」の偉大な功績に心より感謝します。ありがとう!
参考資料:
Chimpanzees produce diverse vocal sequences with ordered and recombinatorial properties | Communications Biology
https://doi.org/10.1038/s42003-022-03350-8(外部サイトへリンク)
松沢哲郎,瀬戸嗣郎:【対談】チンパンジーと私たち~人間らしさを知る,医学界新聞,医学書院、2012.09.17.
Chimpanzees produce diverse vocal sequences with ordered and recombinatorial properties | Communications Biology
https://doi.org/10.1038/s42003-022-03350-8(外部サイトへリンク)
松沢哲郎,瀬戸嗣郎:【対談】チンパンジーと私たち~人間らしさを知る,医学界新聞,医学書院、2012.09.17.
執筆者紹介

渡邉 順子
看護師、看護学者(基礎看護学?看護教育学?看護技術学)。博士(保健学)(大阪大学?2004年)。名古屋保健衛生(現藤田医科)大学病院消化器外科?脳外科、名古屋大学医学部附属病院内科での勤務を経て、名古屋大学医療技術短期大学部看護学科講師、名古屋大学医学部保健学科看護学専攻准教授、聖隷クリストファー大学看護学部学部長?教授、静岡県立大学大学院看護学研究科研究科長?教授などを歴任。2021年より副欧洲杯外围赛_欧洲杯下注预测-直播官网。著書「患者の声から考える看護」(2020,医学書院). 日本看護技術学会名誉会員(2025).
看護師、看護学者(基礎看護学?看護教育学?看護技術学)。博士(保健学)(大阪大学?2004年)。名古屋保健衛生(現藤田医科)大学病院消化器外科?脳外科、名古屋大学医学部附属病院内科での勤務を経て、名古屋大学医療技術短期大学部看護学科講師、名古屋大学医学部保健学科看護学専攻准教授、聖隷クリストファー大学看護学部学部長?教授、静岡県立大学大学院看護学研究科研究科長?教授などを歴任。2021年より副欧洲杯外围赛_欧洲杯下注预测-直播官网。著書「患者の声から考える看護」(2020,医学書院). 日本看護技術学会名誉会員(2025).





